SHILISUのすとれーじぼっくす

詩、文章。日記。書いてる人は適応障害。抑うつ状態で休職してましたが復職しました。

☆散文☆人魚姫

人魚姫が声の代わりに地を歩く二本の足を手に入れたように。
エラが、鰭が手に入るなら、この声を失ってもいい。


くねった円を描きながら都心を走る路線は、いつもより何故だか揺れが激しかった。
いわゆる「ドア付近」に立っていたあたしは、昼の眩しい太陽を避けて、ぼんやりと車両内の床を見ていて、向こう側にこちら側にいくつも並ぶ足を見ていた。
背中がヤケに熱い。
「〜と違う 組み合わせてる色さえリンクしない あなたの大きな鞄の中身も 一人で過ごす部屋も見たことがない 埋まらぬ距離を測れるメジャーはなく わたしの肌にあなたは匂いをのこしていく〜」
少し大きめな音量のイアホンから好きな曲が流れてきていた。
窓から射し込む陽射しは背中や髪を焼いて、あたしの周りでジリジリと音を立てた。
今日は大学の物理教諭の好意で、天体観測をさせてくれるという彼の友人が館長をやっているという科学館に向かっていた。
冷房は何だか温くて、暑かった。
床に映る陽射しはくっきりとした陰をおとして、あたしはただもう「夏が好きだ」と思った。
科学館の受付で天体観測会参加の旨を伝え、教諭や友人たちとプラネタリウムの見学をさせてもらった。

東京の夜は明るい。
ビルの屋上でも灯り一つ要らずに足下も何も見える。
星の数も異様に少なく感じた。

プラネタリウム天体望遠鏡もとても面白く、興味深い内容で感動しつつ、あたしはただ、ただ、東京の空は物足りないんだなと痛感した。

翌日、地元に帰ろうと思い立ち、さして重くもない荷物をまとめて羽田空港へと向かった。

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決して2006/08/31の創作でないのがわかったので。
タイトルなど訂正しました。(2019/07/27)