☆SS☆鏡の上の波 チョコチップクッキーは
鏡の上の波
「‥‥難しい」
鉛色に青光りする波を眺めながら、小さく呟いた。
船は小さな島島を渡り、今、あたしは帰郷のための船に乗っていた。
帰路の安堵感なのか、旅の疲れなのか。眠いのか、ダルいのか、そんなよくわからないような状態で、あたしは海を眺めていた。
手元には、お気に入りの短編。
しかし、先ほどから、それもあたしを一つの世界に止めておくことができない。
意識は、左右に揺らめき、上下にたゆたう。
昨晩見た、真夜中の海に広がっていた、巨大な虚無感が、あたしの内を襲っているようだった。
絶えず聞こえる、子供の声は、何故か熱を持ち、あたしの耳たぶを赤くした。
熱に潤み、ボヤけた視界に、浮かび上がった影‥‥。
「泣いちゃいなよ」
いきなり言われて驚いた。
「今にも泣き出したいって、非道い顔してるぜ」
言葉とはウラハラに、ドコか優しく響く声。
窓の向こうに見える海原は、まるで鏡の面のように静まりかえっている。
船の中にも音がない。先ほどまでの船内放送が聞こえない。煩いほどに響いていた、子供の声も聞こえない。‥姿さえ見えない。船の中には誰もいない。
「泣けよ、ほら」
はっきりと響く声。
ふらふらとその声だけを頼りに歩いていくと、甲板へとたどり着いた。
静まりかえった世界。
ドコまでも続く、青い海、波の一つもたっていない、すべてのモノが息を止め、すべてのモノが消えていた。
「安心して泣けよ」
「大丈夫だから」
言われたとたん、あたしの頬を熱いモノがあとからあとから流れていた。
雫石が海の面へ落ちて、小さな小さな波紋を作った。
「そんなに難しいコトじゃあねぇよ‥」
‥‥いつの間にか寝入っていたらしい。
そんなに長い間ではない。たぶん、ほんの4,5分のことだ。
「‥‥」
何かの気配を感じ、少し‥‥いや、かなり驚いた。
誰かが隣に椅子を引き寄せてコチラを見ていた。
「いつから居たの?」
連れの友人は、「少し前だよ、あなたにしては珍しく、気付いてくれないのかと思った」と少し心配そうに言った。
「ン、誰かと思って、少しびっくりしてた」
「調子は?」
「大丈夫」
先ほどまでの不安定な感覚は、すっかりなくなって、落ち着いていた。
「何か、昼の海は、夜の海ほど面白くない」
友人の言葉に相づちをうつ。
窓の外には、特別な動きなんて一つも見えない、果てない波が広がっていた。
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大部屋に大きなタッパー置いて、小部屋二つに個別において、「今日中に食べて」したけれどみんな食べてくれたかしら。
タッパーの回収を忘れてしまって、帰ってきたけれど、はい。
台風です。あす、しごとやすみだといいです。